16歳  夏のオワリ

坂になった路の土が、砥の粉のように乾いている。

寂しい山間の町だから、路には石塊も少なくない。

両側には古いこけら葺の家が、ひっそりと日光を浴びている。

僕らふたりの中学生は、その路をせかせか上がって行った。

すると赤ん坊を背負った少女が一人、濃い影を足もとに落としながら、静に坂を下ってきた。


蕗( フキ 苳、款冬、菜蕗、学名:Petasites japonicus)とは、キク科フキ属の多年草。日本原産 北海道・足寄町の螺湾川(らわんがわ)に沿って自生するラワンブキは高さ2~3mに達し、北海道遺産に指定されている。かつては高さ4mに及ぶものもあり、馬に乗ったままその下をくぐることもできたという。秋田県にも2mほどにも伸びる秋田蕗というものもあり、全国的にも有名である。江戸時代秋田藩主の佐竹義和は江戸でこの傘の代わりにもなるフキの自慢をしたところ、他の藩主から信じてもらえなかった。そこで、藩主の名誉のために、領民は山野を捜索して一本の巨大フキを発見した。それを江戸に運び藩主の名誉を回復したという。これによって、傘代わりにもなるこのフキの存在が国中に知られることとなった。(Wikipedia)<br />






















少女は袖のまくれた手に、茎の長い蕗をかざしている。

何のためかと思ったら、それは真夏の日光が、
すやすや寝入った赤ん坊の顔へ、
当らぬための蕗であった。


僕ら二人はすれ違う時に、そっと微笑を交換した。

が、少女はそれも知らないように、やはり静に通りすぎた。

かすかに頬が日に焼けた、大様の顔だちの少女である。

その顔がいまだにどうかすると、はっきり記憶に浮かぶことがある。


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角川版 芥川龍之介全集第6巻 点心 より 引用。 UP 2002.05.08
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わたしはこの文章を 中学から高校へあがる時期に、
いわゆる受験参考書のなかで 読んでいました。

論旨をたどる明晰な論理的文章とは違う、清冽な印象が、
深くわたしの内面に沈潜していたのだ と思います。

高校へあがって古ぼけた図書館の書架の一隅に、
堀辰雄らによって芥川龍之介の死の直後に編まれた岩波版8巻本が
 埃の下に埋まっていました。

(注) 1. 上記の本文は、『芥川龍之介全集 第四巻』(岩波書店、1977年11月22日第1刷発行、1982年8月20日第2刷発行)によりました。 2.前記の全集の後記によれば、 「蕗」は、大正10年(1921)3月1日発行の雑誌『新潮』第34巻第3号に掲載され、のち『點心』に収められました。また、『梅・馬・鶯』にも収められているそうです。上記の本文は、『點心』を底本とし、初出以下と校合した、とあります。『點心』は、芥川初の随筆集で、大正11年5月20日、金星堂から刊行されました。 3. 昭和25年ごろの『高等国語一上』(文部省発行)の教科書に、この「蕗」が 掲載されていたように覚えていますが、どうでしょうか。末尾の「里見君の所謂一目惚れとは、こんな心もちを云ふのかも知れない。」という一文は、除かれていたと思います。(追記)文部省発行の『高等国語』の教科書を見てみましたが、この「蕗」は出ていませんでした。どこで読んだのでしょうか。(2008.3.13記) 【小さな資料室】 注記より引用



その年の夏休み、
現代国語の課題レポートが芥川龍之介だったんで、
全巻借受け、自転車にくくりつけて(重かったあ) 
ふらふらしながら押して 自宅に持ち帰りました。


-------そして 暇に任せて 読み進むうち、
冒頭にご紹介した、懐かしさ溢れる文章に 再会したのです。


それは「蕗」という表題の、ほぼ全文でした。
そしてこの文章には、次の一文が後続していたのも
 この時 知りました。

「里見君のいわゆる一目惚れとは、こんな心もちをいうのかも知れない」


わずか最後の一文があるとないのとでは、
全体の印象がまったく変わってしまう、
文字のもつ神秘的な奥深さを知った 16歳  夏のオワリ

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最後の一文 改題 UPDATE 2008.10.26

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ちあき

  • Author:ちあき
  • 白線同盟駆坂あかね様
     御賜物<KAREN>

     『 0 』 ( 2013.07.05 )

    作曲・MIDI制作 嶋 是一さん



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