最後の一文

This is Chiakiy's birthday present for Ai.




UP 2002.05.08

20041107234851.gif




坂になった路の土が、砥の粉のように乾いている。
寂しい山間の町だから、路には石塊も少なくない。
両側には古いこけら葺の家が、ひっそりと日光を浴びている。
僕らふたりの中学生は、その路をせかせか上がって行った。
すると赤ん坊を背負った少女が一人、濃い影を足もとに落としながら、
静に坂を下ってきた。
少女は袖のまくれた手に、茎の長い蕗をかざしている。
何のためかと思ったら、それは真夏の日光が、すやすや寝入った赤ん坊の顔へ、
当らぬため蕗であった。
僕ら二人はすれ違う時に、そっと微笑を交換した。
が、少女はそれも知らないように、やはり静に通りすぎた。
かすかに頬が日に焼けた、大様の顔だちの少女である。
その顔がいまだにどうかすると、はっきり記憶に浮かぶことがある。


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わたしはこの文章を 中学から高校へあがる時期に、
いわゆる受験参考書のなかで 読んでいました。
論旨をたどる明晰な論理的文章とは違う、清冽な印象が、
深くわたしの内面に沈潜していたのだ と思います。
高校へあがって古ぼけた図書館の書架の一隅に、堀辰雄らによって
芥川龍之介の死の直後に編まれた 岩波版8巻本が 埃の下に埋まっていました。
その年の夏休み、現代国語の課題レポートが芥川龍之介だったんで、
全巻借受け、自転車にくくりつけて(重かったあ) ふらふらしながら押して
自宅に持ち帰りました。-------そして 暇に任せて 読み進むうち、

冒頭にご紹介した、懐かしさ溢れる文章に 再会したのです。
それは「蕗」という表題の、ほぼ全文でした。
そしてこの文章には、次の一文が 後続していたのも この時 知りました。

「里見君のいわゆる一目惚れとは、こんな心もちをいうのかも知れない」

わずか最後の一文があるとないのとでは、全体の印象がまったく変わってしまう、
文字のもつ神秘的な奥深さを 知った16歳  夏のオワリ

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Happy birthday to ai !


角川版 芥川龍之介全集第6巻 点心 より 引用。

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ちあき

  • Author:ちあき
  • 白線同盟駆坂あかね様
     御賜物<KAREN>

     『 0 』 ( 2013.07.05 )

    作曲・MIDI制作 嶋 是一さん



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